固体音という言葉をご存じでしょうか? 正式には固体伝搬(伝播)音と呼ばれますが一般的にはあまり知られていないかもしれません。今回の豆知識では、この固体音について取り上げ、もうひとつの伝搬音である空気音とどう違うのかを比較しながらわかりやすく説明します。
固体音とは【空気音との違い】
音は空気音と固体音の2種類に分類されます。空気音は、正式には空気伝搬(伝播)音と呼ばれ、空気中を振動として伝わる音で、窓や壁を透過してくるものも空気音に含みます。一方、固体音というのは、振動が固体中(建物の構造体など)を伝わっていき、その先で壁面などから放射された音のことを指します。
建物内の固体音と空気音
図1~図3に建物内で聴こえてくる音を固体音と空気音に分類して示します。
空気音には、人の声、機械のモーター音、外部の交通騒音などがあります。音源から空気中を伝わって直接聞こえてくる音とそれが窓や壁など透過してくる音も空気音に含みます。
一方、固体音は、建物の構造部分(柱、梁、スラブなど)に伝わった振動が床面や壁面を通して聞こえる音です。固体音には、上の階の足音や子供が跳ねる音、機械のモーター音、外部の鉄道の音などがあります。このうち機械のモーター音、外部の鉄道の音は、空気音・固体音の両方が建物内に入ってくることがありますが、伝わってきている振動から放射されている音は個体音です。その他固体音の原因になりやすいものとして、ドアの開閉振動、ピアノやドラムなどの打楽器の振動、外部の工事や工場から出ている振動、などが挙げられます。
ちなみに、伝搬はもともと伝播と書かれていたため、固体伝播音という表記をよく見かけますが、固体音の名称に関しては、新版音響用語辞典では固体伝搬音※と記載されています。
※日本音響学会編.新版音響用語辞典.コロナ社.2003.127p.
図1 建屋内の空気音と固体音例(人から発生する音)
図2 建屋内の空気音と固体音例(機械稼働音)
図3 建屋内の空気音と固体音例(屋外交通騒音)
固体音の特徴
固体音は、振動が建物の構造部分を伝わり空気音では考えられないほど遠くまで伝わるという特徴があります。さらに、振動が音として放射する量は、音として放射する面の素材や形状、固定の方法などによって大きく変化します。その結果、同じ振動源から同じ距離を伝わっても、放射面が異なるだけで、音が聞こえたり聞こえなかったりすることがあります。また、固体音は、構造体の中を様々な方向に伝わるため、下階に振動源あるのに上階の天井から音が聞こえる場合もあり、伝搬経路が複雑で振動源がわかりにくいケースがあります。
固体音の対策法
固体音対策には、振動源がわかりにくい、伝搬経路がたくさんあり、どの経路を優先的に対策するか決めないといけないなどの問題があります。そのため、固体音の対策は空気音の対策よりノウハウが必要です。また固体音の対策は、空気音とは異なるアプローチが必要です。例えば、空気音対策で効果的な距離を離すとか、遮音する壁を設けるといった方法は、固体音には効果が得られないことがあります。固体音対策の基本は、音ではなく振動を低減させることです。
固体音対策の基本的な考え方として1~3があります。一般的には、これらを基に建屋の条件などを考慮しながら、最適な対策を立案する必要があります。
- 振動する運動や力(加振力)自体を小さくする。
- 振動が伝わる構造(固体)部を重く、振動しにくい構造体にする。
- 伝わる経路に防振材を使用し、振動を絶縁して小さくする。
ちなみに、良くある対策失敗例としては、空気音と固体音が同時に発生している場合に、空気音だけに対策を行った結果、空気音は小さくなったが、固体音はそのまま残っていたという例があります。
固体音の対策は一概に決まった方法はありませんが、弊社で行っている体育館床の飛び跳ね音を下の階に伝わりにくくする対策例をご紹介します。
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