第一事業部 技術グループ
深津 遼貴
近年、設備投資で新しい機械を導入したり、機器の配置レイアウトを変更したりする工場が増えています。このような場合、思わぬ2つの問題が生じることがあります。1つ目は騒音問題、2つ目は振動問題です。騒音問題は知覚しやすく、また対策についても機械を囲うことにより比較的対策を施しやすいのですが、振動問題は知覚がしづらく、また対策も、場合によっては悪化させるケースがあり、対策方法がわかりづらい部分があります。
そこで、振動対策方法についてピックアップして説明します。
1.工場内の振動
設置機械の大出力・高速化に伴い、大きな床揺れが発生し、問題となるケースが増えています。工場内の振動問題は、大きく分けて2つあります。1つ目は「作業者に対する影響」、2つ目は「周辺機械への影響」です。
「作業者に対する影響」は、作業環境の悪化を意味します。心理的な不快感だけでなく、ひいては作業効率が落ちる、ミスが増えるといった影響を及ぼすこともあります。
「周辺機械への影響」は、振動により機械の性能を低下させる問題です。振動に弱い機械(嫌振機)としては、検査機器(光学顕微鏡やX線CTスキャン装置)、精密加工機(グラインダー、多軸加工機)、実装機(チップマウンター)、半導体露光装置などがあります。振動により不良率や精度に影響が生じる場合は、周辺機械からの振動の影響を低減することが要求されます。
図1.振動を発生する機械の例
図2.振動に弱い機械の例
2.実際の振動対策って?
対策方法としては、機械と周辺との縁を切ることにより対策を実施します。振動を発生する機械から、外部に伝わる振動を抑える防振対策と、振動に弱い機械に、外部からの振動による影響を抑える除振対策があります。
防振対策と除振対策ともに、具体的には、図3左側のように機械のみを弾性体で支持(縁切り)する場合と、より高い低減効果を求めて、図3右側のように機械を支持する床も弾性体で支持(縁切り)し、二重対策を行う場合があります。このとき、防振または除振する場合に用いる弾性体のやわらかさにより、振動低減の効果量は変わります。一般にやわらかい弾性体ほど、振動低減効果は高い傾向があります。
図3.振動対策例
図4.対策に用いる弾性体例
3. 振動低減に重要なパラメータ
「防振、除振」といっても、単にやわらかい弾性体を機械の脚に設置すればよいというわけではありません。やわらかすぎると、弾性体を設置した機械自体の揺れが許容値を超えてしまい、動作に不具合が出るケースや、パラメータを適切に設計しなければ、振動が増幅してしまうケースもあります。
そこで、設計する上で重要なパラメータが、弾性体の柔らかさと関係性の高い「固有振動数」です。固有振動数とは、あらゆる物体がもっている一番振動しやすい(共振しやすい)振動数のことをいいます。振動低減効果は、弾性体の固有振動数と対象機械の振動数との比である振動数比 𝜂 、と振動伝達率𝜏、減衰比 𝜁 によって決まり、振動伝達率を1より小さくすることが必要となります。
ここで振動が発生する機械を防振する時をモデル化すると、図5のように表すことができます。機械質量𝑚、ばね定数 𝑘、減衰係数 𝑐、機械変位 𝑋0、基礎変位xとした時、防振効果は振動が伝達した割合として次式のように示すことができます。ここで、k と c は弾性体の特性により変化します。
- τ:振動伝達率
- F0:強制加振力
- F:基礎に伝わる力
- ζ:減衰比(c/2√mk)
- η:振動数比(f/f0)
- f0:固有振動数[Hz]
- f:対象周波数[Hz]
F
0
=
1
2
π
=
d×k
m
- d:動的倍率
- k:静的ばね定数(N/m)
- m:質量(kg)
図5.防振のモデル
振動伝達率をグラフに表すと図6にようになり、振動数比 𝜂 = 1 のとき共振現象により振動伝達率𝜏 は最大となりますが、𝜂 > √2 (≒1.4) の時 𝜏 < 1 となり防振領域となります。また、減衰比 𝜁 が小さいほど共振倍率は大きくなる性質がありますが、防振領域で振動低減効果が高くなります。
例えば、600 rpmの回転機器の振動成分が600/60=10 Hzのみであった場合、√2の1.4で割った7 Hz以下の固有振動数の弾性体、できれば1/2や1/3の5 Hzや3 Hzの弾性体を設定することで、より大きな対策効果が得られます。
図6.振動伝達率と減衰比関係
表1.防振効果
振動数f/f0 |
振動伝達率τ |
基礎に伝わる力
Fの増減 |
防振効果 |
0~√2※ |
1以上 |
F>=F0 |
なし |
>√2 |
>1 |
F0>F |
あり |
※f/f0=1の時、振動伝達率は最大(=1/2 ζ)となります。
4.防振・除振のポイント
最後に機械振動の防振・除振設計を行う際のポイントをまとめると下記3点になります。
- 1. 低減させる周波数の振動伝達率を小さくする。
- 振動伝達率𝜏を1以下にするには、振動数比𝜂を√2以上、できれば2以上に設定する。
また、共振周波数f0を低く設定することにより、防振効果領域を広げる。
- 2. 共振の倍率を正しく設定し、共振による振動増幅の影響を小さくする。
- 共振倍率を調整するには、減衰比を調整する。防振の効果量と共振倍率を考慮し弾性体を選定する。
- 3. 弾性体上の機械の変位量を調整し、動作に不具合が出るのを抑える。
- 変位量を小さくするためには、質量mを付加させる。機械自体の揺れが許容値を超えないようにする。