1.はじめに
近年、建物の居住性や快適性への関心が高まっており、日常的に発生する振動から居住性能を確保することが重要になっています。建物に求められる居住性能は、建築主、居住者、設計者の合意のもとで適切な目標性能を設定し、その性能レベルを満足する建物にする必要があります。
居住性能を評価するためには、「人の知覚や感覚などの主観的評価量」とよく一致する、「振動の物理量」による評価規準が必要となります。
今回は、振動による居住性能の評価規準の一つである日本建築学会の「建築物の振動に関する居住性能評価規準」の中から鉛直振動の評価のポイントをまとめました。
2.居住性能評価とは
「建築建物の振動に関する居住性能指針と同解説」は、建物内の日常的な振動(環境振動)を居住性の観点から評価するための我が国初の指針として1991年に日本建築学会が刊行しました。居住性能評価はその中で提案されている、建築物の床などに生じる振動に対し、居住性能が評価できる物理指標です。
2004年と2018年に版が改められ、最新の第3版では設計要素が切り離され、振動とそれに対する居住者との関係に内容が特化されたことから、名称も「指針」から「規準」に変更されました。
図1 日本建築学会編:建築物の振動に関する居住性能評価規準・同解説 第3版 2018
3.建築物の振動に関する居住性能評価規準
振動性能評価規準は、建築物にかかわる居住環境としての性能を確保する観点から、環境振動(環境振動については豆知識:Causes of Vibration - A Complete Guideをご参照ください)を評価する場合に適用します。
3.1定常的な(大きく変動しない)振動評価の場合
- 鉛直方向の性能評価図によって評価します。
- 評価する振動は加速度の最大値(0-p、単位cm/s2)
- 評価する周波数は3 Hzから30 Hz
- 図2-1と図2-2のように、住居などの床用と事務所などの床用で評価曲線が異なる(住宅などの床用のほうが事務所などの床用より振動に対し評価が厳しい)。
- 評価曲線と評価曲線の間は評価レベルとなり、評価レベルはV-Ⅰ~V-Ⅶまで7段階評価となる。
- 表1の鉛直振動の評価レベルの説明を用いて、気になり具合と不快さとの対応を確認する。
図2-1 鉛直振動の性能評価図(住居などの床)
図2-2 鉛直振動の性能評価図(事務所などの床)
表1 鉛直振動の評価レベルの説明
3.2実際の評価例 定常的な振動
図3 振動の居住性能評価例
実際に例を用いて評価します。得られた加速度を性能評価図にプロットし、評価レベルで、最も高い評価レベルの値を採用します(図3)。加速度が8 Hzにて3.3 cm/s2であったので、評価レベルはV-Ⅲとなります。表1の鉛直振動の評価レベルの説明で気になり具合と不快さとの対応を確認すると、表2のようになり、やや気になる、あまり不快ではない振動となります。
表2 鉛直振動の評価レベルの説明
3.3非常的な(大きく変動する)振動評価の場合
非定常的な鉛直振動の評価は、3.1に記した定常的な振動の評価と同様の方法で行います。ただし、性能評価図と照合する加速度振幅の最大値は、以下のAに示す方法にしたがって低減できます。
3.3.1加速度振幅の低減方法
非定常な鉛直振動を評価する場合、図2-1、図2-2と照合する加速度は、振動の継続時間に応じて低減出来ます。ここで、振動の継続時間は、後述するVL10msが55 dB以上となっている時間の合計とします。
VL10msとは、JIS C 1510-1995で定められている振動加速度レベル(VAL)を全身の振動感覚特性(鉛直方向)で補正した振動レベル(VL)が基になっています。ただし本来VLの時定数は630 msなのに対し、VL10msは、時定数10 msを用います。時定数とは急激な振動の変化にどれだけ早く反応するかを表す数値で、短い時定数は急激な振動変化をとらえやすいとされています。従って時定数が10 msと短いほうが、振動継続時間の影響を適切に求められるからです。また、振動レベルの55 dBという値は、揺れを感じ始める値とされています。
図4に、A*/AとTの関係を示します。
なお、VL10msが55 dB未満になっている時間が5 s以下の場合、その前後の振動は一つの振動として評価することで、前後の継続時間を加算します。
図4 A*/AとTの関係
- A :各バンドの加速度振幅の最大値
- A*:図2-1,図2-2と照合する各バンドの加速度振幅
- T:振動の継続時間(s)
3.4実際の評価例 非定常な振動
実際に例を用いて評価してみます。得られた加速度を性能評価図にプロットします。
続いて図5-1のように、VL10msで55 dBを超える区間の時間を出します。今回は0.39 秒だったので、低減係数は0.57となります。従って得られた加速度3.3 ㎝/s2を0.57倍した加速度1.88 ㎝/s2が非定常時の性能評価(図6)となります。このように非定常時の居住性能は、V-Ⅱでの評価になります。
図5-1 VL10msを用いた低減量の出し方(時刻歴波形から継続時間の算出)
図5-2 VL10msを用いた低減量の出し方(A*/AとTの関係式から読み取り)
図6 低減係数により低減された非定常時の性能評価図
引用文献:「建築物の振動に関する居住性能評価規準・同解説」 日本建築学会 2018
4.実際の体験の重要性
このように居住性能評価を使えば振動の評価はできます。評価レベルから心理的な感覚量は示せますが、実際の体験がないと、振動の評価の合意形成は難しいです。そこで弊社ショールームにて評価規準の性能レベルを「体感」してはいかがでしょうか。
起振器で居住性能基準の揺れを再現いたします。また、併設したAMDにて制振効果も体感できます。ぜひ一度お越しください。詳細はthis way (direction close to the speaker or towards the speaker)for more information.