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環境振動の評価方法(鉛直方向)-まるわかりガイド

環境振動の評価は、測定で記録された振動の加速度データを分析した後に各種評価規準に照らし合わせて行います。評価規準・方法はいくつかあり、用途や対象物によって使い分けます。どんな場面で使うのか?どのような評価なのか?代表的なものをいくつか紹介します。

振動規制法(環境省)

昭和51年に制定された法令。都道府県知事や市長・特別区長は、振動について規制する地域を指定(指定地域)していて、3つの規制対象ごとに異なった規制基準などが定められています。評価は鉛直方向の振動レベル(振動加速度レベルに人の体感補正を加えたもの)で評価します。

1.工場・事業場振動

指定地域内で大きな振動を出す特定施設※1を設置している工場を対象

区域/時間昼間夜間
午前5時~午前8時の間から
午後7時~午後10時の間まで
午後7時~午後10時の間から
翌日午前5時~午前8時の間まで
第1種区域60~65dB55~60dB
第2種区域65~70dB60~65dB

※1 特定施設とは…工場又は事業場に設置される施設のうち、著しい振動を発生する施設であって政令で定める10の施設(1.金属加工機械、2.圧縮機、3.土石用又は鉱物用の破砕機、摩砕機、ふるい及び分級機、4.織機、5.コンクリートブロックマシン、6.木材加工機械、7.印刷機械、8.ゴム練用又は合成樹脂練用ロール機、9.合成樹脂用射出成形機、10鋳型造型機)をいう。

2.建設作業振動

指定区域内で大きな振動を出す特定建設作業※2を行う際の工事現場を対象

区域/時間第1号区域第2号区域
振動の大きさ敷地境界線において75dBを超えないこと
作業時間帯午後7時~翌日午前7時に行われないこと午後10時~翌日午前6時に行われないこと
作業期間1日あたり10時間以内1日あたり14時間以内
連続6日以内
作業日日曜日、その他の休日でないこと

※2 特定建設作業とは…建設工事として行われる作業のうち、著しい振動を発生する作業であって政令で定める4の作業(1.くい打機、くい抜機又はくい打くい抜き機を使用する作業、2.鋼球をしようして建築物その他の工作物を破壊する作業、3.舗装板破砕機を使用する作業、4.ブレーカーを使用する作業)をいう。

3.道路交通振動

指定区域内で道路交通振動を対象

区域/時間昼間夜間
午前5時~午前8時の間から
午後7時~午後10時の間まで
午後7時~午後10時の間から
翌日午前5時~午前8時の間まで
第1種区域65dB60dB
第2種区域70dB65dB

引用文献:環境省 振動規制法パンフレット https://www.env.go.jp/content/000190208.pdf

日本建築学会環境規準:AIJES-V0001-2018(日本建築学会)

日本建築学会が制定した居住性能評価規準が示されており、建物内の日常的な振動を居住性の観点から評価するためのものです。1991年に第1版が刊行され、2004年に第2版、2018年に第3版が刊行されています。第3版では人の動作や設備、交通、強風などによる建物や床の揺れを評価します。鉛直振動と水平振動でそれぞれ規準があり、鉛直振動では用途(住居と事務所)ごとの性能評価図が示されていて、住居の方が厳しい評価になっています。1/3オクターブバンドの振動加速度の最大値で評価します。

性能評価図はV-Ⅰ~V-Ⅶの7段階の表記となっており、曲線の間の範囲をV-〇〇と評価します(図1)。評価レベルは揺れの気になり具合と不快といった心的評価でレベル分けされます(表4)。例えばV-Ⅲの場合は「やや気になり、あまり不快ではない」という評価になります。

また、旧指針(AIJES-V0001-2004:第2版)では人の振動知覚確率をもとにした評価曲線でした(図2)。V-〇〇の数字は各レベルの振動が生じた際に何%の人が振動を感じるかを示しており、例えば10%の人が感じるレベルをV-10のように表します。振動を感じることが、そのまま振動に対する苦情となる訳ではないので、建物用途など評価の対象となる環境についても考慮する必要があります。実際の評価例はコチラ

図1-1 性能評価図(住居などの床)     図1-2 性能評価図(事務所などの床)
(AIJES-V0001-2018)

表4 評価レベルの説明

図2 性能評価曲線(AIJES-V0001-2004)

引用文献:日本建築学会編「建築物の振動に関する居住性能評価規準・同解説」2018
日本建築学会編「建築物の振動に関する居住性能評価指針・同解説」2004

歩道橋計画設計指針(日本鋼構造協会)

前述の居住性能評価規準は一般的な床での評価基準です。こちらは歩道橋や階段、連絡ブリッジ(渡り廊下)などを評価するのに用います。社団法人鋼構造協会編:「これからの歩道橋―付人にやさしい歩道橋計画設計指針」に各種振動恕限度(人の健康に目立った悪影響や被害を与えない上限の値)として提案されている値です(注:主たる研究結果の一つで、統一的なコンセンサスが得られた恕限度はまだありません)。1/3オクターブバンドの振動加速度の最大値で評価します。歩道橋や階段、連絡ブリッジ(渡り廊下)などは、建物の床に比べて掛かる荷重が小さく、華奢な構造となり一般的な床と比べて大きな振動が発生しやすいです。したがって、居住性能評価とは異なり、歩道橋の評価は利用中の歩行者自身が振動に対して感じる評価なので、歩いている状態と立ち止まっている状態の評価になります。実際の評価例はコチラ

図3 各種の振動の恕限度

引用文献:社団法人鋼構造協会編「これからの歩道橋―付人にやさしい歩道橋計画設計指針」199

環境係数(日本建築学会)

環境係数は国際規格である、ISO2631-2 Annex A(1989)をもとに作られています。環境係数の倍率が用途別のみになっているなど細かい点で変更がありますが、ほぼ同じです。1/3オクターブバンドの振動速度の実効値で評価します。 基準曲線である環境係数1をもとに建物の用途に応じた倍数を乗じて評価を行います(図4,表5)。実際の評価例はコチラ


図4 環境係数曲線

環境係数用途
1精密作業区域
2住宅・病院
4事務所・学校
8作業所

引用文献:日本建築学会編「鉄筋コンクリート構造計算規準・同解説」2018

VC基準(Insutitute of Environmental Sciences: IEST)

VC基準(曲線)は1980年代初頭に半導体分野で使用するために作られましたが、IEST(環境科学技術研究所)によって1993年標準化されました。現在は様々な分野で精密機器のための許容規準として用いられています。最初にVC-A~Dまでの4つのレベルが作成されました。その後、VC-Eが追加され、続いてVC-FとVC-Gが追加されました。評価曲線は前述の環境係数の元になったISO2631-2の基準曲線がもとになっており、VC-Aが基準曲線の半分の50 μm/s、VC-Bがさらに半分の25 μm/sになっています。VC-C以下の厳しい基準は、以前はVC-A 、VC-Bと同じようにカーブを描いた曲線でしたが、2002年に1 Hz~80 Hzまでの平坦な評価曲線になりました。1/3オクターブバンドの振動速度の実効値で評価します。

図5 VC基準

評価基準用途
VC-A400倍程度の光学顕微鏡 電子天秤
VC-B線幅3μmまでの露光装置と検査装置
VC-C1000倍程度の光学顕微鏡、線幅1μmまでの露光装置と検査装置
VC-D電子顕微鏡やE-Beamシステムを使う装置
VC-Eレーザーを用いたシステムや㎚単位のE-Beamシステムを使う装置、達成が非常に困難な基準
VC-Fきわめて静かな研究空間に適している。ほとんど達成困難な基準、設計基準として用いるのは推奨されない。
VC-Gきわめて静かな研究空間に適している。ほとんど達成困難な基準、設計基準として用いるのは推奨されない。
  • 引用文献:Institute of Environmental Sciences(IEST),
  • Appendix C in Recommended Practice RP-012,
  • ”Considerations in Clean Room Design,” IES-RP-CC012.2,
  • Institute of Environmental Sciences, Rolling Meadows, IL, 2005