風でビルが揺れる
建物が揺れる原因として地震を思い浮かべる人が多いと思いますが、風で揺れることもあるのです。特に建物が高層であればあるほど
- 風から受ける力が強く、
- 高層階ではゆっくりと大きな揺れが長時間続く傾向になります。
また、建物の周りには様々な風が複雑に吹いており、風が吹く方向だけでなく、風と直交する方向や建物がねじれるように揺れることもあります。
こうしたことから、建築基準法では超高層建築物については風による影響も考慮して構造安全性を検証するように規定されており、超高層ビルでは風揺れ対策を行うことが一般的です。
中高層ビルでも風揺れが起こる
高層の建物ほど風で揺れやすくなりますが、およそ15階程度までの中高層ビルでも風揺れが問題になることがあります。
このような中高層ビルでは風揺れよりも地震による影響の方が大きいため、風揺れについて検討しない場合が多いですが、市街地の狭小地に建てられるようなビルは、細長いスレンダーな形状のものが多く、超高層ビル同様に風の影響を受けやすいです。
ビルの風揺れによる影響
風は地震と異なり、揺れが数十分、数時間続く特徴があります。地震と比べると小さな揺れですが、長い時間揺れを感じていると不安を感じたり、乗り物酔いのような症状が出るなどの悪影響があります。
実際にSNSで台風発生時の投稿を調べると、暴風雨によって建物が揺れて不安を抱く内容や気分が悪いといった内容の投稿が見られます。
ホテルやオフィスに求められる居住性・快適性
昨今の建築物には、地震に対する高度な安全性保持・機能維持はもちろんのこと、より快適な居住性が求められています。
また最近では居住性や快適性、デザイン性の高いハイグレードな中高層オフィスビルやホテルが注目されています。安全性に加えて居住性が建物性能の主要部分を決定するこのような建物では、この種の要求は強いです。
特にホテルなどは風揺れが原因でSNSや口コミサイトのレビューで低評価を付けられると、大きな被害になってしまいます。
そのため、中高層ビルにおいても風揺れによる居住性を検討し、対策を行う事例が増えています。
ビルの風揺れ対策
主な風揺れ対策をご紹介します。まず基本となるのが①剛性を上げる方法です。柱などを太くして揺れにくい頑丈な構造にします。
次に②制振(震)ダンパによる対策です。オイルダンパなどを組み込んだブレース材を壁面などに施工し、軸組が揺れるのをダンパの減衰力で吸収します。
最後に③マスダンパによる対策です。錘の反力で建物の揺れを吸収します。建物の固有周期に調整した錘で揺れを抑えるTMDと錘を動力で能動的に動かして揺れを抑えるAMDがあります。
制振デバイスのそれぞれの特徴についてはこちらもご覧ください。制振入門(3)~制振(震)デバイスあれこれ~
狭小地の細長いペンシルビルで風揺れ対策をしようとすると、①や②の方法だと建物内の有効床面積が減少してしまう可能性があります。③のマスダンパは屋上に取り付けるだけなので、建物内部の空間を有効に活用できるメリットがあります。また、AMDはコンパクトサイズなので建物竣工後に起きた問題にも対策可能です。
制振装置によるビルの風揺れ対策の実例
実際にヤクモが制振装置で風揺れ対策を行った事例をご紹介します。
ホテル用途の建物で客室が入るため居住性能が求められましたが、
細長い形状であり、風揺れが懸念されました。
まず、再現期間1年の風速(1年で起こりうる最大の風速)を建築物荷重指針に基づき設定し、シミュレーションを行い、日本建築学会「居住性能指針」で事前評価を行いました。
その結果、H-Vレベル「ほとんどの人が知覚し、あまり不安・不快を感じない」という評価となり、目標値を大半の人が知覚しないH-Ⅲレベルに設定して、制振装置TMDを検討しました。
屋上に7.5トンのTMDを2台設置し、人力加振(水平ステップ)による加振試験を行いました。振動加速度が1/2~1/3程度の振動に収まっており、TMDの効果を十分発揮していることがわかります。
施工実績のページでは、この他にも風揺れ対策の事例をご紹介しています。そちらもぜひご覧ください!