工場から発生する振動・騒音公害、機械周辺の作業環境・居住性の悪化、振動に弱い機器への悪影響等々、機械から発生する振動に起因する振動課題には様々なものがあります。今回はこのような機械振動に対して効果的な対策である防振について説明します。
防振の基本的な考え方
機械振動に起因する課題は、機械⇒床⇒その周辺へと振動が広がって伝わっていき、あちらこちらで発生してしまうことがあります。そうならない為には、振動の伝搬経路の途中で対策するより、その振動源である機械の足元で振動をカットするのが一番良い方法だと思いませんか?
防振は正に発生元での振動対策手法で、機械と床との間にやわらかい弾性体を挟むことで床への振動伝達量を小さくする振動低減技術です。図-1に防振による振動伝搬低減のイメージを示します。
図-1 防振による振動伝搬量低減のイメージ
やわらかい弾性体って?
下の部屋に振動が伝わらないよう洗濯機をゴムマットの上に設置する、オーディオスピーカーをゴムブロックの上に乗せて音質改善etc…このような“振動対策”は普段の生活の中でもよくやっていることで、「やわらかいものを敷くと伝わる振動が低減される」というのは何となくイメージ湧きますよね。
では、実際に機械の防振に使う「やわらかい弾性体」とはどういうものなんでしょう?
代表的なものとしては、防振ゴム、コイルバネ、空気バネなどが挙げられます。それぞれの特徴を表-1にまとめます。これら材質などは違いますが、全て弾性体ですのでバネの特性を持っています。バネの特性というのは掛かる力に比例して伸びたり縮んだりする性質のことです(F=kxが成り立つ)。
表-1に示すように、防振に用いる弾性体はやわらかい程その効果が高くなります。そして、そのやわらかさを表しているのが固有振動数です。
表-1 機械防振に用いる弾性体(防振材)の種類と特徴
やわらかさを表す固有振動数
表-1の中で弾性体のやわらかさを表すのが固有振動数です。正確に言うと弾性体の上に機械(質量)が乗ったバネマス系(図-2のようなモデル)の固有振動数です。固有振動数って何でしょうか?
図-2の錘をちょっと下に押さえつけて、次の瞬間手を離すというイメージをしてみて下さい。そうすると錘はある一定の動きで振動しますよね。その時の振動の周波数(1秒間に何回往復するか)が固有振動数といわれるもので、
- 周波数が低い=やわらかい(ゆっくり振動する)
- 周波数が高い=かたい(速い動きで振動する)
となります。
この固有振動数というのが非常に重要で、防振の効果を表す振動伝達率と密接な関係があります。
図-2 弾性体に機械(マス)が乗っている力学モデル
振動伝達率(防振効果)と固有振動数の関係
図-3に示すように、機械の加振力fは、弾性体を介してf’となって床に入力されます。このf’に対するfの比率が振動伝達率で、防振の効果を表しています。
図-3 振動伝達率とは
この振動伝達率は周波数によって変わるのですが、その特性は防振系の固有振動数によって決まります。
例として、図-4に固有振動数12Hzの場合と3Hzの場合の振動伝達率の理論曲線を示します。グラフは、横軸が周波数、縦軸が振動伝達率の値です。振動伝達率が1より小さい範囲が防振による効果が発揮される領域です。
振動伝達率については以下のことがわかります。
- 固有振動数が低いほど効果は高く、より低い周波数領域から効果が得られる。
- 固有振動数付近では逆に振動を伝えやすくなる(増幅)する領域が存在する。
図-4 防振効果(振動伝達率)と固有振動数の関係
まとめとポイント
以上、防振の基本的な考え方、その効果は弾性体がやわらかい(固有振動数が低い)ほど高くなるということを述べました。
では、防振対策をするときはなるべくやわらかい弾性体を機械の下に敷けばそれでOKなのでしょうか?
実はそんなに単純ではなく、やわらかくしすぎると機械自体の振動が許容変位を超えてしまい動作に不具合を生じてしまうことがありますし、防振系の固有振動数を適切に設計しなかったために却って振動が大きく伝わってしまった、なんてケースもあり得るのです。
そうならないためには、機械の加振力特性、発生している振動がどのような特性でどこまで低減させるべきか、機械自体の許容変位、これらを全て考慮した「防振設計」が重要です。是非、防振のプロフェッショナルであるヤクモにお任せください。機械振動課題をお抱えの方はお気軽にご相談を!
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