我々の身の回りには、生活の快適性や居住性に悪影響を与えるさまざまな振動が発生しています。これらの振動は、何が原因で発生し、どのような特徴があるのでしょうか。
振動源の分類
身の回りで起きる振動現象の振動源は、大きく「自然振動源」と「人工振動源」の2つに分けることができます。
自然振動源は自然現象によって引き起こされます。例えば、強風や長周期地震動(地震によるゆっくりとした大きな揺れ)などがこれに該当します。
一方、人工振動源は人間活動によって引き起こされます。これをさらに細かく分類すると、建物を中心に内部発生と外部発生考えることができます。建物内部で発生する振動は「内部人工振動源」と呼ばれ、これには人の歩行や運動、設備機械の稼働による振動が含まれます。また、建物の外部で発生する振動は「外部人工振動源」と呼ばれ、これには道路交通や鉄道、工場などが近くにある場合に伝わってくる振動が含まれます。
図1 振動源の分類
参考文献1)日本建築学会:居住性能確保のための環境振動設計の手引き,2020.6
自然振動源
自然振動源は風と地震があります。
風は主に高層ビルを揺らします。風の速さや風圧は高度が上がるにつれて増加し、そのため高層ビルの揺れやすい周期と風の強さが合致すると、それが原因で高層階の大きな揺れが長時間続くことがあります。
地震はその振動の周期成分によって異なる性質を示します。遠隔地で発生した地震では、短周期(短く小刻みな揺れ)成分は弱まり揺れが小さくなりますが、長周期成分は弱まらずに地盤を伝わり、高層ビル(特に高層階)がゆっくりと大きく揺れます。そのため、高層ビルの居住環境を考慮する際は、主に長周期地震動を対象にします。
外部人工振動源
【交通振動】
交通振動には、道路交通と鉄道によるものがあります。自動車や列車が近くを通ると、振動が発生し、地盤から建物に伝わり揺れます。
道路交通振動は、自動車の走行によって発生する地盤振動が原因です。路面や高架橋などの状態、車種(重量や速度)、交通量などが影響します。
鉄道振動は、列車や乗客の重さや速度、車輪の摩耗状態、レールの状態などが影響します。また、レールの継ぎ目から発生する衝撃振動も多く、建物が揺れるだけでなくゴトゴト音が聞こえるといった固体音(振動に由来する騒音)の原因にもなります。
【工場/生産機械による振動】
工場などの生産施設における振動源としては金属加工機、圧縮機械、成形機械、粉砕機械、織機、走行クレーンなどがあります。これらの機械はプレスによる衝撃振動や、モーターなど回転による振動を発生させます。
これらの機械が設置されている建物内を揺らすだけでなく、地盤を伝わって近隣の建物が揺れる原因になるため、建物内外の振動が問題となることがあります。
内部人工振動源
【設備機器による振動】
建物内の設備機器には、エレベーターや機械式駐車場、空調設備、給排水設備、ボイラー設備などがあります。これらの機器は、回転や往復動作によって振動が発生します。また、機械内部の水流や気流により振動が発生する場合もあります。
これらの振動は、揺れとして体感される振動だけでなく、壁や天井、床などに振動が伝わって音(固体音)として聞こえ、騒音問題となることもあります。
【人の動作による振動】
歩行や運動など人の動作によって起こる振動です。
人が歩くことで生じる加振力自体はそれほど大きくありませんが、その加振力には歩行のリズム(周期)と整数倍の周波数成分が含まれています。中でも歩行テンポの1~5倍の周期成分が床の揺れやすい周期に近づくと、床が大きく揺れる(共振現象)ことがあります。特に長いスパンや軽量化された床は、共振しやすい傾向があります。また、鉄骨造などの建物は木造などに比べて振動が収束するのに時間がかかる傾向があります。こういった条件が合わさり、大きく不快な揺れが発生し、問題となることがあります。
エアロビクスなど、多人数でリズムに合わせて跳躍や屈伸の運動をするタイプのフィットネスは、もともと加振力が大きいうえに歩行と同様、運動の周期に含まれる整数倍の周期成分が床や建物の揺れやすい周期に近づくと共振し、揺れが大きくなります。その結果、揺れが建物の上下階(場合によっては数フロア隔てた階)に伝わり、振動問題となることがあります。